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なったり、多くの怪我を受ける危険度を高めるものでもあることがこれまでに一貫して示されてきた。虚血性心疾患に対する予防効果があることから、この種の病気の罹患率が高く、逆に怪我や暴力の少ない社会においては、確かにアルコールが死亡の原因となるのと同等に死亡を防ぐ役割を果たすかもしれない、先進国ではそれもあり得るかもしれないが、しかしそのように豊かな国においてさえ、飲酒の問題は依然として公衆衛生上の大きな問題として残っている。なぜなら飲酒を原因とする怪我や早期死亡の件数があまりにも多く、その結果、特に酩酊状態の運転者による自動車の衝突によって、多くの人が本来の機能を失ったまま長い余生を過ごすにとになったり、まだまだ生きられたはずの命が早期に失われたりしているからである。
多くの途上国では状況は非常に異なる。例えばアフリカのサハラ砂漠以南の地域においては、虚血性心疾患が比較的少ないため、飲酒による悪影響が飲酒による好影響をはるかに上回り、怪我による死亡率や障害率の上昇に飲酒が大きく貢献しているという結果になっている(図2参照)。また、ラテンアメリカとカリブ海諸国においてもアルコールが関与した傷害率が極端に高く、全疾病・傷害件数の1割近くがアルコールがらみのものとなっている。究極剛には、アルコールによる死亡件数は、死亡100万件の4分の3(75万件)を占め、死亡阻止件数を上回り、開発途上地域においては過剰死亡の5分の4以上と概算されている(Murray and Lopez、1996)。
従って、豊かな国においてアルコール使用が健康に及ぼす実質的影響と、虚血性心疾患が比較的少ない貧しい国におけるアルコール使用の実質的影響を明確に区別する必要がある。同様に、健康への影響を測る方法の差違についても区別しておかなければならない。死亡件数の絶対数のみを用いて判断し、アルコールが死亡率に及ぼす実質的な影響は、先進国においては中立的なものであると結論づけるのか、あるいは他の指数(障害者として生存した年数[Disability Adjusted Life Years−DALYs]等)を用いて判断し、アルコール乱用が原因で死亡した(あるいはアルコール摂取により死亡が回避された)人の年齢や、死には至らなかったものの飲酒が原因で障害者となった人の年齢等を考慮に入れるのか、というような問題である。このように、より広い観点に立った公衆衛生の測定法を用いると、アルコールが先進国を含む全ての国の人々にとって病気や怪我による重要な負担の原因となっているにとがわかる。

 

アルコールの製造・消費における傾向
アルコールの使用が関与して発生する健康面・社会面での問題の増加傾向は、アルコール製品の製造と消費における増加傾向とほぼ一致している。ビール、ワイン、蒸留酒の生産は基本的に世界中どの地域においても増加している。例えばWHOによる最近の調査では、世界のビール総生産量は、1960年から1990年の間に2.7倍になったと概算している(Grant and Walsh,1993)。アルコール飲料の生産と消費の増加は大抵の場合人口増加のぺ一スを上回っているため、人口1人あたりのアルコール消費量は地球規模で増加しているということになる。
アルコールが関与する問題の傾向は、概して、アルコール消費(摂取量)の傾向と相関しているにとが最近の研究で示唆されている。アルコール摂取量が関与する問題について討議したWHOの専門家委員会によると、アルコール摂取量と問題発生の関係を的確な言葉で説明することはできないが、両者の相関性を裏付ける経験論的報告がかなりあるというにとである。両者の相関性が最も納得のいく形で証明されているのは肝硬変についてであるが、飲酒が関与するその

 

 

 

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